恩は着るもの 返すもの
はぐれ鳥でも 忘れはしない
行ってきやんす しばしの別れ
あの娘手をふる 杉木立
右は近江路(おうみじ) 左は伊勢路(いせじ)
鈴鹿峠の 旅がらす 旅がらす
ちょっと待ってが 愛しくて
三日おくれて 草鞋(わらじ)を履(は)いた
脇差(どす)も合羽(かっぱ)も さらりと捨てる
そんな明日(あす)への 七曲り
つれにはぐれた 白鷺一羽
飛んで鈴鹿は 雨になる 雨になる
花を見るより 根がみたい
母のおしえが 今さら沁みる
勝手気ままな 性分だから
ご恩返しが 先延ばし
ここを抜ければ 土山宿(つちやましゅく)か
鈴鹿峠の 旅がらす 旅がらす
[ Romaji ]
旅の途中で交わる別れと約束を淡々と紡ぎ出す語り口で、道中の匂いや風の冷たさが目に浮かぶようでした。恩を大切にする心情がさりげなく滲んでいて、昔に教わったことが行動の基盤になっていた場面が確かにありましたし、今も旅を続ける逞しさが息づいていると感じます。雨に濡れる木立や峠の曲がりくねった道が情緒を添え、身軽さと覚悟が同時に表れているのが印象的でした。語りは素朴で温かく、登場人物の所作が生き生きとしていて、聞き手の心に静かな力を与えるように思えました。