まだ俺が がきの頃 越してきた家に
若い規父が植えた柚子 今年も青い実がなった・・・
義母(はは)譲り 柚子のジャム トーストに塗って
自信なさげに出来を訊く
おまえがやけに眩しいよ・・・
ちびを学校に送り出し
久しぶりだね、朝の食卓(テーブル)
隣近所の噂にも なぜか胸は安らぐ
甘酸っぱい柚子の味 後ほろ苦い柚子の味
ねぇ 今 1日だって
おまえより長く生きて やる気でいるが
ねぇ もし もしもだよ
呆気なく俺が先に 逝ったとしたら
・・・ごめんな
くり返し不始末を 仕出かした俺さ
いつも土下座で詫びるとは
お前が両親(おや)を宥(なだ)めたね・・・
父は亡く 母も亡く 人生は速い
ひとつ正しいことをした
お前を女房にしたこと・・・
どんな幸せを捨ててたか
沸いたケトルの笛に沁みるよ
少し休めよ、コーヒーは 俺が淹れてやるから
甘酸っぱい柚子の味 後ほろ苦い柚子の味
ねぇ 今 ありがとうとか
お座なりの感謝なんか 言わずにおくが
ねぇ もし もしもだよ
償いもできず先に 逝ったとしたら
・・・ごめんな
甘酸っぱい柚子の味 後ほろ苦い柚子の味