夢を見ていた。三時をまわっていた。
懐かしい黴の匂いがして、
君が夢に出たことを伝えたかった。
今更、笑って会えるような気がしたんだ。
空き壜をサンダルで蹴るような
割と無敵だった夏のこと。
振り返るたびに焦がれてしまう。
昔の自分に憧れてしまう。
「もう帰る時間だよ」
帰り道なんてものがそう、確かに在ったこと。
陽傘を「大げさ」と言う君は、
もう大人になったのかな。
なれたかな。
ねぇ、夏の終わり際って何で
こんなに寂しいんだろうね。
繰り返すには早く、振り返るには遅い。
見えない敵をつくったって
決して生きやすくはならなかった。
飛ばせなくなる階段。それでも磨り減る靴。
馬鹿にされているようで朝が嫌いだったこと。
守られているようで夜が嫌いだったこと。
そんなものの上に、弱い弱い私がいたこと。
せめて、君には知ってほしい。
嫌われたくないから、
合わせる会話が随分上手になったよ。
伏し目がちに頷いた君が
どうしても消えないままだ。
ねぇ、夏の終わり際って何で
こんなに懐かしいんだろうね。
記憶を触る度、かすかに遠くなる。
サイダーが飲めなくなって、
日に焼けるのを好まなくなって、
あの頃の私ごと否定する気がした。
いつの間にか周りだけが大人になっていく。
私にはひたすら眩しい。正しくなりたい。
背丈が伸びても、変わらず届かない何かがあって、
それにひどく安心した。
夢を見ていた。三時をまわっていた。
懐かしい黴の匂いがしました。
喋り方を真似てふざける二人でした。
馬鹿だな。代わりなんていないのに。
そんなの、とっくに知っているのに。
ねぇ、夏の終わり際って何で
こんなに寂しいんだろうね。
繰り返すには早く、振り返るには遅い。
見えない敵がいなくたって。
決して生きやすくならなくたって。
差し出された手だけは握り返せるように。
朝日が、いつも君みたいに眩しかったから。
夜の空気が、君みたいに心地いいから。
忘れたくないのは、君のこと。
だから、嫌ったこと。
思い出すのは夏のこと。