まだ云わないで
呪文めいたその言葉
“愛”なんて羽のように軽い
囁いて
パパより優しいテノールで
奪う覚悟があるのならば
百万の薔薇の寝台(ベッド)に
埋もれ見る夢よりも
馨しく私は生きてるの
どうすれば醜いものが
蔓延(はびこ)ったこの世界
汚れずに羽摶(はばた)いて行けるのか
ひとり繭の中
学びつづけても
水晶の星空は
遠すぎるの
まだ触れないで
その慄(ふる)える指先は
花盗人の甘い躊躇(ためら)い
触れてもいい
この深い胸の奥にまで
届く自信があるのならば
白馬の王子様なんか
信じてるわけじゃない
罅(ひび)割れた硝子匣(ケース)
飾られた純潔は
滅びゆく天使たちの心臓
また明日(あす)も目覚めるたびに
百年の刻(とき)を知る
眠れない魂の荊(いばら)姫
くい込む冠
一雫の血に
この現実(いま)が真実と
思い知るの
まだ行かないで
月光(つきあかり)の結界で
過ちに気づいてしまいそう
安らかなぬくもりに抱かれ
壊れたい私は
罪の子なのでしょうか
そっと零れてくる
涙の意味さえわからない
もう云わないで 呪文めいたその言葉
“愛”なんて鎖のように重い
囁いて
パパより優しいテノールで
どんな覚悟もできるならば
さあ誓ってよ
その震える唇で
蜜を摘む狩人のときめきを
攫(さら)っていい
この深い胸の奥底を
射抜く勇気があるのならば
貴方、捕まえたらけして
逃がさないようにして